苺屋永井

2025/05/26 10:39


群馬の風土が育てる一皿──セパージュ石橋シェフが語る、「あまい雫」と料理の現在地

群馬・前橋のまちなかに構えるフレンチレストラン「cépages(セパージュ)」。東京のミシュラン星付の名店などで腕を磨いた石橋和樹シェフが、群馬に移住して2年。群馬の食材と本格フレンチを掛け合わせながら、ここでしか味わえない料理を追求し続けている。


今回は、苺屋永井の「あまい雫」を使った料理の背景とともに、石橋シェフが見つめる「地方でフレンチをつくるということ」について話を伺った。


 
群馬でつくるフレンチが、東京の自分を超えていく


「移住当初は、正直ちょっとビビってました(笑)」。そう振り返る石橋シェフ。東京から群馬に移住し、ゼロからの挑戦だったが、今では地域の中にしっかりと根を張りつつある。
「群馬の人は、あるラインを超えると一気に仲間にしてくれるようなところがあるんですよね。どこかの記事で読んでいたんですが、実際にそれを感じています」



群馬での暮らしや出会いは、シェフ自身の料理観にも変化を与えたという。

「根っこ──食材へのリスペクトや“おいしいものを届けたい”という気持ちは変わりません。でも、暮らしが変わって、手にする食材が変わって、日々接する人が変わったことで、料理そのものは確実に変わりました」
東京からわざわざ食べに来てくれるお客様もいる。そういった方々に向けて、石橋シェフが意識しているのは、「この土地で、今の自分だからこそ出せる料理」を提供することだ。
 


群馬食材との出会いは、“対話”からはじまった

移住当初は、生産者とのつながりもなく、知人もほとんどいない状態。それでも、「美味しい」と聞けばすぐに会いに行く──そんな姿勢で、信頼関係を一つひとつ築いてきた。

「同業の仲間も増えてきて、紹介を通じて『増田牛』のような特別な食材とも出会えました。食材との関係は人との縁の積み重ねでもあるんです」
オープン当初は「コースのすべての皿に群馬食材をひとつ入れる」という自分なりのルールを設けていたが、今は少し変わってきた。
「今は、“無理に使わない”というのも信念のひとつ。こだわりを持って作っている生産者のもの、そしてお客さんの目の色が変わるようなインパクトのある群馬の食材だけを、ポイントで使いたいと思っています」

とはいえ、料理の根幹には常に群馬がある。たとえば、一見すると県産食材を使っていないように見える一皿でも、味のベースとなるコンソメには上州地鶏と増田牛を使っている。フレンチにおけるコンソメは、和食でいう“出汁”のようなもの。つまり、ほぼすべての料理の土台に群馬の風土が息づいているのだ。
 


あまい雫との出会い。「香りが爆発したんです」

「あまい雫」を初めて口にしたのは、BAR営業のとき。常連客が何気なく持ってきたものだった。
「何の説明もなかったんですが、一口食べた瞬間、香りとジューシーさの“爆発力”に驚きました。うんちく抜きで、素直にうまい、って思ったんですよ」
その後、苺屋永井の永井さんと出会い、畑にも足を運んだ。生産者としての想いを聞く中で、「香りを大切にしたい」という言葉に深く共感したという。
 



永井さんの想いを、そのまま一皿に。

現在セパージュで提供している「あまい雫」のデザートは、香りと質感を引き立てるために、極めてシンプルな構成。
アーモンドのブラマンジェの上にあまい雫を乗せ、その上に塩アイス。仕上げにオリーブオイルをかけた一皿だ。
「余計な要素を加えて、香りを邪魔したくなかった。乳製品といちごの相性の良さを活かして、味も見た目もミニマルにしています。永井さんの話を聞いて、自然とこの形が頭に浮かびました」
お客様からの反応も上々で、興味を持った方には、実際に苺屋永井の直売所を紹介することもあるという。
 


完璧ないちごは、料理人泣かせ──でも嬉しい

石橋シェフが語る「あまい雫」ならではの魅力は、“欠点がないこと”への嬉しい悩みだ。
「ちょっと酸味があるとか、形がいびつだとか、そういう“引っかかり”がある方が、料理人としてはインスピレーションが湧きやすい。でも『あまい雫』は本当に完成されているんです」

「レーダーチャートでいったら正五角形。パーフェクトなバランス。そのまま食べた方がうまいんじゃないか、っていうぐらい(笑)。特に畑で食べたあの味は忘れられないですね」

 

「ここでしか食べられない」を、これからも

群馬という土地に根ざし、フランス料理と土地の恵みをつなぐセパージュ。その料理の中には、確かな技術と、まっすぐな対話と、土地へのリスペクトが宿っている。

石橋シェフの料理は、これからも「その場でしか出会えないおいしさ」を更新し続けていく。




【店舗情報】

cépages(セパージュ)

住所
前橋市千代田町5-9-1 まえばしガレリア1F

営業時間
ディナー 18:00 一斉スタート
ランチ (土日のみ) 12:00 一斉スタート

電話番号
027-212-2990

Instagram:@cepages_restaurant
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